静脈が瘤のように腫れた状態を静脈瘤といいます。人には3ヶ所に静脈瘤ができます。食道静脈瘤、精巣静脈瘤、下肢静脈瘤です。それぞれできる原因が違います。
【食道静脈瘤】胃や腸から吸収された栄養分は門脈と呼ばれる静脈を通って肝臓に運ばれます。肝硬変になると肝臓は硬く小さくなります。柔らかくて大きな肝臓へ流入していた分の血液は硬く小さな肝臓にはあふれ出てしまいます。このあふれ出た分の血液は一部が逆流して胃に戻りさらに胃から食道の周りの静脈を通って心臓に戻ります。今まで食道の分しか流れていなかった静脈に胃や小腸の分の血液まで流れてしまうわけですから洪水状態です。本来静脈は細くて壁も薄くできています。そこに大量の血液が流れ込むと静脈は太く蛇行し、所々瘤状になります。食道の粘膜の下にある静脈が拡張、蛇行すると食道静脈瘤となります。食道の粘膜は薄いのでこの静脈はしばしば破裂して赤黒い血を吐きます。吐血と言います。(喀血と言うのは肺から血を吐くことで、結核などで起こりますが動脈からの出血なので鮮紅色です。)肝硬変になると血小板が減り凝固因子という血液を固める蛋白も減っているので血が止まりにくい状態です。そのため、食道静脈瘤破裂は大量吐血を招き致命的になることがあります。ではどうしたらよいかと言うと、慢性肝炎のある人は定期的に胃内視鏡をして胃や食道の状態を観察しておくことです。静脈瘤があればそこに硬化剤を注射して静脈瘤を硬め破裂しないように予防することができます。
【精巣静脈瘤】精巣(睾丸)に行く動脈はみぞおちの高さの大動脈から出て鼠径を通って精巣に達し酸素と栄養を運びます。静脈は精巣から出て陰嚢内を通り鼠径から後腹膜(内臓と背筋の間)を経由して右は大静脈に入り、左は腎静脈に入り、腎静脈が大静脈に入っています。右も左も重力に逆らって血液は下から上にのぼっていくわけです。それは静脈の中に弁があって逆流しないようになっているからです。この弁が何かの理由で壊れると血液が逆流して静脈の拡張、蛇行が起こります。陰嚢の中の静脈が腫れると風呂上りなどで陰嚢がたるんだ時に精巣の上に静脈瘤の凸凹がわかります。長時間立っていると陰嚢が重い、膨らむなどの自覚症状がある人もいます。腎静脈を介するぶん精巣静脈瘤は左側に多く発生します。精巣静脈瘤があると精子の数や運動が悪くなることがあります。このような時は手術で治しておく必要があります。
【下肢静脈瘤】下腿や足を廻った血液は静脈を介して心臓に戻ります。立位では重力に逆らって心臓に戻らなければなりません。精巣静脈と同様に内に弁があるので、足の筋肉が収縮すると中の静脈は圧迫され弁の作用で一方向に(心臓に向かって)血液は流れます。この弁が故障すると静脈の流れはうっ滞します。道路の渋滞と一緒で血管は拡張、その周りの血管まで拡張、蛇行します。膝の裏側から下腿にかけて皮膚を通して青筋だった血管や、数珠のようにでこぼこになった血管がみえます。これが下肢の静脈瘤です。立ち仕事の多い方にできやすいです。静脈血液の流れが悪いため飛行機のエコノミー症候群や、手術後の深部静脈血栓症に注意をする必要があります。治療は手術で拡張した静脈を引き抜く方法があります。予防としては弾性ストッキングで皮膚の上から圧迫する方法などが多少有効です。