精液がトマトジュースのように赤くなる病気があります。“血精液症”といいます。みんなあせって病院に行きます。“大事なところの奥で何か重大な病気が起きているのではないか?がんではないか?”半分以上の人はこう考えます。血精液症の原因の多くは前立腺炎です。例外としてPSAが上昇していたため前立腺針生検を行った後にも血精液症になります。針で小血管が破れるからです。前立腺炎による血精液症は炎症による小血管の破綻が原因です。炎症が治まればよくなります。トマトジュースのような赤から、ピンクまたは灰色となって正常に戻ります。
“前立腺炎”は“急性前立腺炎”と“慢性前立腺炎”があります。20~40代に多い疾患です。急性前立腺炎は細菌が前立腺にはいって前立腺に炎症が起こり腫れます。腫れると言っても眼に見えないところなので自覚的にはよくわかりません。炎症による発熱(38度以上)だけのこともあります。発熱によって節々が痛くなったり、寒気がしたり、身体がだるくなるので風邪と診断されることもしばしばあります。前立腺が腫れたことによる排尿痛や排尿困難、血尿などがあると診断は容易です。細菌が入る原因としては尿道からの場合もありますが、虫歯の菌や咽頭炎や風邪などの菌が血液に乗って運ばれ前立腺炎を起こすこともあります。
慢性前立腺炎は急性前立腺炎が遷延して慢性になってしまう場合と知らないうちに菌が入り前立腺炎を起こしている場合があります。症状は、下腹部不快感、恥骨後部の痛み、陰嚢の裏の不快感や鈍痛、違和感、股の付け根の痛みなどです。なった人でないと表現はわかりにくいのですがなった人はこれらの言葉の意味が良くわかります。なかなか良くならないのが慢性と言われる所以です。STD(性行為感染症)の菌が前立腺に入って慢性化している場合もあります。
前立腺の菌が抗生物質などによって消失しても前立腺の症状がとれないことがあります。無菌性前立腺炎といいます。前立腺やその周囲のうっ血(血のよどみ)、精神的ストレスなども原因とされていますがまだ不明な点も多い疾患です。近頃は慢性骨盤疼痛症候群とも言われます。
治療:細菌性前立腺炎の場合は抗生物質が治療の主体です。重症の場合(39度以上の発熱、食欲低下、排尿困難)は入院して治療することもあります。慢性前立腺炎は抗生物質の断続的投与やセルニルトンという生薬が有効です。セルニルトンはシイ、トウモロコシ、ライムギ、ヤナギ、キクなどの花粉を微生物で処理した抽出エキスが主体で抗炎症作用があります。劇的な効果は少ないもののなんとなくよく効く薬です。副作用は少なく半年以上続けることがあります。その他には前立腺マッサージといって直腸から前立腺を用手的に圧迫し貯留した古い前立腺液を出す方法があります。マッサージを受けているときはつらいのですが後ですっきりします。辛い食事やアルコールの連続は前立腺炎症状を悪化させることがあるので気をつけましょう。座り仕事の人や運転手さんなどは1時間に1回くらい椅子を離れてひとまわりや下肢の屈伸運動をすると楽になります。コンドームをつければ性行為の制限はありません。規則正しい生活や適度な運動が回復への早道です。一度慢性前立腺炎になると何で治らないのかな?と皆さん悩みますが心配ありません。特に後遺症もなくなんとなくいつの間にか治る病気です。