PSA検診の普及により前立腺がんが早期に見つかるようになってきました。
当院でも多くの方が前立腺がんの治療を受けています。ここ最近前立腺がんの診断と治療は格段に進歩してきましたので最近の治療についてお話します。
前立腺がんと一口に言っても病態は様々です。悪性度の指標がグリソンスコア(GS)です。3+3、3+4、4+3、4+4、4+5、5+4、5+5などのように3から5の二つの数字の足し算形式で表記されます。数字が増えるほど進行のスピードが速い(悪性度が高い)ことが予想されます。治療法を決めるにはまず病気の拡がりを検査します。骨シンチ検査(アイソトープを注射すると骨の異常部位に集積する)で骨の転移、CTとMRIでがんが前立腺周囲やリンパ節に拡がっていないかを検査します。その結果、骨やリンパ節に転移がある場合を転移がん、転移が無い場合を限局がんと言います。
【転移がんの治療】
前立腺は男性にしかない臓器です。男性ホルモンの影響を強く受けます。そのため、男性ホルモンの働きを抑えることができれば前立腺がんは成長を停止しどんどん小さくなっていきます。男性ホルモンの影響を無くす(内分泌治療)にはまず精巣から分泌される男性ホルモンを無くすことです。これには注射薬があります。現在使用されている注射薬は3種類。リュープリン、ゾラデックス、ゴナックスです。それぞれ薬理や剤型に多少の違いがありますが効果は同等です。また内分泌治療の副作用は、勃起力低下、のぼせ(突然身体が熱くなって汗が出る、2~3分で元に戻る)などがあります。人間の身体で男性ホルモンは90%が精巣から分泌され、10%は副腎から分泌されます。副腎からの男性ホルモンを抑えるための内服薬も病状に応じて使われます。注射と内服薬によって(場合によっては注射薬だけで)前立腺がんをコントロールします。内分泌治療の効果は、PSAの値で監視することができます。PSAの値が徐々に上昇してくると、注射や内服の効果が劣ってきたと判断されます。その場合には内服薬の変更、抗がん剤、放射線治療で対応します。
【限局がんの治療】
代表的な治療は手術と放射線です。どちらの場合も治療前に半年間の内分泌治療うことがあります。内分泌治療で前立腺がんを弱らせ、前立腺を小さくすると手術がしやすくなります。出血が少なく手術時間が短くなります。放射線では前立腺が小さくなった分照射する範囲を狭くすることができます。手術の短所は術後の勃起障害や術後の尿失禁(5%前後)が起こる可能性があることです。手術の入院期間は1週間から10日位です。ダビンチというロボット手術が普及しより手術手技が進歩しています。放射線治療も最近特に進歩した分野です。入院しないで外来通院となります。IMRTという放射線機器では約8週間の通院で根治が期待できます。尿失禁の心配はありません。まだ施設は限られていますが重粒子線治療も保険適応となっています。手術と放射線治療の治療効果はほぼ同率で、優劣をつけがたいところがあります。年齢、病状、体調や個人のライフスタイル、仕事や家庭の事情などから主治医とよく相談して選択するのが良いと思います。 手術や放射線治療の後は患者さんの年齢や病状によって内分泌治療を中止する場合と継続する場合があります。
また、極めて早期の場合にはPSA監視療法といって何も治療をせずに様子を見る方法があります。進行が極めてゆっくりな前立腺がんでは無治療でも10年以上も進行しない場合があるからです。