世に言う民間療法の一つ“結石にはビールが好い”について考えてみます。まず“結石”ですが人間にできる結石の中で代表的なものは2つあります。“胆石”と“尿路結石”です。胆石と言うのは胆ノウ嚢や胆管の中にできる石のことで胆汁の成分が固まったものです。尿路結石は尿中の成分が固まったものです。したがってこの両者は全く違う原因でできます。ビールが関係するのは尿路結石のほうです。

 尿路結石はできる場所によって腎結石、尿管結石、膀胱結石などと呼ばれます。成分はシュウ蓚酸カルシウム、リン燐酸カルシウム、尿酸、燐酸マグネシウムアンモニウム、などいくつかの種類があります。男女比は4:1で圧倒的に男に多く、好発年令は20代~50代位までです。子供に少ない理由はまだ分かっていません。60歳を過ぎると食事を含めて生活習慣が変わる事、腎臓の濃縮力が低下する(小便がうすくなる)事などにより結石ができにくくなります。大の男も救急車を呼びたくなるくらい痛いのが結石の発作ですが、このような結石はいったい何故できるのでしょうか。

 尿は身体の代謝産物(老廃物)をぎりぎりまで濃く溶かしています。砂糖水や塩水などがぎりぎりまで溶けている時これを“飽和状態”と言います。尿の場合これがもっとすごく“過飽和状態”となっています。ぎりぎりまで溶けてさらに小さいツブツブ粒粒が浮遊した状態です。だからちょっとしたきっかけがあるとこれらの粒粒がお互いにくっつきあって雪だるまのように大きくなっていき結石となります。
きっかけにはどんなものがあるのでしょうか。

 ①濃度の変化:物質(蓚酸、カルシウム、尿酸など結石の成分)が増えるか、水が減れば尿は濃くなり石はできやすくなります。
 ②pHの変化:尿が酸性になると蓚酸カルシウム結石と尿酸結石はできやすくなります。酸性ではこれらの成分は溶けにくいからです。尿がアルカリ性になると燐酸カルシウム結石や燐酸マグネシウムアンモニウム結石はできやすくなります。また尿中に細菌がいると尿がアルカリになるので、膀胱炎を起こす事の多い女性には後者の結石ができやすいようです。結石の成分によって尿を酸性にしたらよいかアルカリにしたらよいかが全く逆となります。結石の人は自分の結石は何だったかを思い出して下さい。一般に肉食(魚含む)は尿を酸性に傾かせ、菜食はアルカリに傾かせます。
さて問題のビールですが、結石を排出するには大量の水分を取る事が必要です。アルコールには利尿作用もあるのでビールを飲んだ後では大量の尿が出ます。この点においてビールは排石促進効果ありです。さてビールはご存知のごとく大量の酵母により作られています。この酵母のためにビールを愛飲すると尿酸値がとても高くなります。大瓶1本のビールに含まれるプリン体(尿酸の前駆物質)は日本酒1合に含まれる量の15倍あります。腎臓から排出された尿酸は尿を酸性にします。また結石の原料となります。したがってこの点からはビールを飲まないほうがよいと言えます。つまりビールには結石排石促進効果はありますが結石形成促進効果もあると言う事です。

結論:飲むなら水を飲みましょう。

うめやま医院 高崎市 泌尿器科