最近のペットブームは衰えを知りません。ペットは現代人の生活に潤いを与える役目を果たしているが、同時に飼い主に感染する病原体をもっている場合もあることを知っておく必要があります。
猫にはトキソプラスマという原虫がいる。トキソプラスマは日本人の成人の20%感染しているありふれた原虫で、成人がトキソプラスマにかかっていてもほとんどの場合症状が出ない。トキソプラスマは成人に感染した場合は、筋肉中で袋を造りそのなかで静かにしているからである。問題となるのは妊娠中に初めて感染した場合である。この場合、感染した妊婦は何にも問題が起こらないが、トキソプラスマは胎盤を通って胎児に移行する。初感染が妊娠初期の場合には流産、妊娠後期の場合には死産する場合がある。流産や死産にいたらないで生まれてくる場合は、子供の眼に入って視力障害を起こすことがある。猫がトキソプラスマをもつ場合は1%未満と想像されるので実際に妊婦がトキソプラスマに感染する可能性は極めてまれであるが、これまで猫にあまり接触したことの無い女性が妊娠したときはあまり猫に近づかないほうがよい。猫ひっかき病という病気がある。その名のとおり猫に引っ掻かれた後そこから細菌が入り水ぶくれやリンパ腺が腫れる病気である。予後は良好である。
犬に咬まれたことのある人は多いと思う。私も小学生のときに咬まれそれ以来、大きな犬は苦手である。街を歩いていても庭先の犬に吠えられることは多い。犬に嫌われるタイプの人間ではないかとひそかに思っている。今や日本では狂犬病は根絶されている。しかしアメリカ、インド、ヨーロッパなど多くの国ではいまだ大きな脅威となっている。狂犬病は100%の致死率を持つ病気である。アライグマ、スカンク、コウモリなどで感染のサイクルができておりこれらの輸入ペットは注意が必要である。実際、旅行者がアメリカで洗面台の下にいたコウモリに咬まれそのコウモリが狂犬病に感染していたという事実もある。その人は適切な治療を受け九死に一生をまぬがれた。犬や猫の糞にはさまざまな病原菌や寄生虫がいるので砂場の近くなどで糞をさせてはいけないし、きちんと始末することがマナーである。
オウム病は輸入されたオウム、インコにいるクラミジア菌が人間に感染しインフルエンザ様の症状を起こす病気である。鳥の唾液や糞便中に菌が存在する。口移しでえさを与えたり、鳥の糞便が乾燥し、埃となって舞い上がり、それを人間が気道に吸い込み感染する。
夜店で見かける亀、こいつはしばしば食中毒の原因となるサルモネラ菌の保菌者である。そのためアメリカでは甲羅が4インチ(10cm)より小さい亀の販売は禁止されている。イグアナ、カメレオン、などのエキゾチックアニマルもサルモネラをはじめいろいろな病原菌を持っている。夜店で買ったハムスターに咬まれた11歳の女の子がレプトスピラという菌に感染し1ヶ月入院した事件も昨年大阪で起きている。
動物由来感染症から身を守るためには口移しをしない、糞は乾燥する前に始末する、時々熱湯消毒、太陽消毒をする、変わったペットに触ったり砂遊びの後は石鹸で手を洗う、ペットが死んだり自分が体調不良になったときはペットとの関係を考えてみる、などの注意は必要である。