オリンピックを見るとスポーツ選手はすごいと誰もが思う。ところで、ほとんどの人は重量挙げを力比べの競技と考えている。しかし、重量挙げをしている人に言わせると、力が占める要素は6割くらいで、瞬発力とバランスが勝負のスポーツなのだそうである。いくら力持ちでもあの重いバーベルを瞬時に頭上まで持ち上げるのはできない。言われてみるとなるほどと納得する。重量挙げの選手は必ずしも筋肉ムキムキ質でしまった身体をしているわけではない。しかし、例外なく太ももの筋肉が良く発達していると言う。ウエイトリフティングは太ももで踏ん張りまず持ち上げて、その後、全身の力で頭上までいっきに持ち上げる。このスピードを生み出す筋肉がいくらあるかですべてが決まる。
人間の身体を動かす筋肉には赤筋と白筋がある。赤筋と言うのは繰り返し運動に優れ、白筋と言うのは瞬発力に優れている。マラソンランナーでは赤筋の占める割合が多く、ウエイトリフティングや短距離の選手は白筋の占める割合が多い。そしてその割合はほとんど遺伝的に決められている。両親とも長距離が得意ならば子供も長距離が速いだろうし、両親とも短距離が速ければ子供も小学校の頃からかけっこが早い。有名なサラブレッドが血筋(血統)で支配されている理由がおわかりいただけると思う。赤白と言うけれども人間では両筋繊維が混ざり合っているので色の区別ははっきりしない。赤筋は酸素を取り入れて繰り返し運動をするので、そのためのミオグロビンと言う筋肉色素が多く、酸素を使うためのミトコンドリアと言う細胞装置や毛細血管が発達しているので赤い。魚ではこの差が顕著である。マグロやカツオのように外洋を長く泳ぎ回る魚の身は赤く、ひらめやタイのように近海を泳ぐ魚の身は白い。
では我々はどういったトレーニングをしたらよいだろうか。①ゆるい負荷で長い時間繰り返し反復運動を続けるようなトレーニングでは赤筋(持久力)が鍛えられる。②最大限の負荷で一気にやるような運動を何回も行えば白筋(瞬発力)が鍛えられる。①には散歩、ジョギングなどの有酸素運動があてはまる。②では50mダッシュ、腕立て、腹筋などの筋トレ(無酸素運動)があてはまる。①のような運動では酸素を有効に使えるような筋肉組織ができあがる。つまりミトコンドリアなどが発達し、毛細血管が増え酸素や代謝産物が運びやすくなる。②のような運動では筋肉細胞が発達し筋肉が太くなる。また酸素が無くても使えるエネルギー(グリコーゲンやATP)が筋肉に蓄えられるようになる。プロで筋力が10%増えると言うのは大変なことである。野球で例えると100m打っていた人が110m打てるようになるわけだから、今までフェンス際だった打球が全部ホームランになってしまう。大リーグのマグワイアは筋肉増強剤を使ってこれをしたらしい。
如何にトレーニングをして鍛えてもその力が有効に発揮できなければ意味が無い。そのためにはゲーム(実戦)が重要である。実戦によって神経の興奮がうまく筋肉に伝えられるようになる。一般に我々はどんなに努力をしても持っている力の7割程度しか発揮することができない。それを8割実践出来る人がプロである。しかし、火事でたん笥を持ち出す時にはみんな10割の力を出しきっている。自分の潜在能力をいかに引き出すかがトレーニングのこつである。