秋の気配が深まってくると、山々の紅葉も見事ですが、軽井沢や京都など町の中の紅葉も見事と思います。自然が人間にくれたプレゼントです。ところで、この季節、私たちを悩ますことがあります。夜の小便が近くなることです。この問題を解決するために、まず原因を分析したいと思います。
浅い眠り
脳は2時間ぐらいの間隔で深い睡眠と浅い睡眠(レム睡眠)を交互に繰り返しています。加齢とともに浅い睡眠がさらに浅くなります。そのためちょっとしたことで目が覚めやすくなります。夜2時間ごとにトイレに行くという人はこのタイプです。
腎機能の低下
腎臓は血管が豊富に走っています。この血管は加齢とともに動脈硬化を起こしています。濾過効率が悪くなります。昔の洗濯機と同じ、たくさんの水を使わないと綺麗になりません。つまり、一日の老廃物質を捨てるためにたくさん水(小便)がいるわけです。自分の腎機能を知るには血液検査でクレアチニンを調べればわかります。
心臓の予備能の低下
心臓は血液を押し出すポンプです。心臓は昔に比べてパワーが落ちています。でも送り出す体は小さくなっていません。どうするかというと節電と同じ、必要のない部屋の電気を消すのと同じです。昼間は身体を動かし、頭を使い、食事のために胃腸を使っています。血液はこういった臓器(筋肉、脳、消化管)に供給されます。犠牲になるのは腎臓です。ところが夜になって布団に入ると、脳も筋肉も胃腸も活動停止です。心臓は余力ができますので腎臓に血液を送ってくれます。電気(血液)が来た腎臓は明かりをつけるように小便を造ります。昼よりも夜のほうがたくさん小便を造ります。…となれば起きなければしょうがないです。
塩分
“風が吹けば桶屋が儲かる。”ではありませんが、しょっぱいものを食べればのどが渇く。のどが渇けばお茶を飲みます。飲んだお茶は小便になる。問題はお茶が小便になるまでの時間です。昼はお茶を飲んでも夕方からはお茶は飲みません。という人でも、心臓の予備能力低下のために尿になる時間が夜間にずれ込みます。若いころはお茶を飲めばすぐにトイレに行ったのに、今はお茶を何倍飲んでも、トイレには何回も行っていないではないでしょうか。さらに腎機能の低下があると塩分を体から排泄する為に、若い頃よりより多くの水分を必要とするので尿量が増えます。その上、長い間に染み付いた、醤油、味噌、漬物の文化は塩分過多とわかっていてもなかなか変えられません。
過剰な水分摂取
脳梗塞予防のために、寝る前に水を飲みなさい。夜トイレに起きたらコップ1杯の水を飲みなさい。という医師は少なくありません。テレビの健康番組や雑誌をみても同様なことを言っています。もちろん間違いではありません。水分不足は血液が濃くなって血管に詰まりやすくなるからです。しかし、水分を多くとれば脳梗塞が起きにくくなるわけではありません。過剰の水分に予防効果があるわけではないのです。必要にして十分な水分を摂れば足りているわけです。夕食に食べたごはんやおかずはあなたが眠っている間に消化吸収され、水分となって夜間に補充されます。夕食が胃腸の中で水分補充タンクとなっているわけです。 …ところで、森のクマやリスも夜間頻尿なのでしょうか?
季節変動
夏は汗をかきます。飲んだ水分も塩分も汗となり蒸発します。当然夜間の尿量は低下します。汗をかかない秋、冬は頻尿となります。
晩酌
一日の疲れを癒やすのはお酒….。ビールを1缶飲んだら夜間の尿量は350ml増えます。お酒1合飲んだら180ml増えます。そんなことわかってると思いながら飲んでしまうのは性。またアルコールは睡眠の質をおとします。つまり、最初だけ深いけど後は眠りが浅くなります。夜半に目が覚めやすくなるのです。
糖尿病
尿に甘酸っぱい香りがして、喉が渇き水をたくさん飲むようなら糖尿病かもしれません。糖尿病になると、尿中にブドウ糖が排泄されます。腎臓の構造上、尿のブドウ糖が増加すると腎臓の組織中から水分が尿細管の中に引きこまれ(浸透圧利尿)尿量が増えます。血糖値を下げ、HbA1cを下げ、糖尿病を良くすれば夜間頻尿はだいぶ改善されるはずです。
活動性の低下
若い時は朝から夜まで動きっぱなしでしたが、年齢とともに活動性が低下します。脳も身体も若い時のように疲れることはありません。夜の睡眠は浅くなります。
部屋の環境
部屋が冷える、隣のいびきがうるさい、外がうるさいなど途中で目が覚めやすい環境が原因の事があります。
睡眠時無呼吸症候群
があると夜間頻尿になります。
就寝時間と昼寝
夕食を食べるとやることがないから早く布団に入る。8時、9時に布団に入る人は意外と多いようです。9時前に寝れば12時に目が覚めても不思議ではありません。
また昼寝を長い時間すると夜間目が覚めます。
前立腺肥大と過活動膀胱の場合は
内服薬などで改善の余地があります。
自分の原因を検討してみてください。
塩分を控えるには、梅干しや漬物、醤油の量を減らす。夜間目が覚めてしまう人は、就床時間を遅らせる、昼寝をしないなどができれば良いでしょう。睡眠薬に頼ると当初はよく効きますがだんだん効果が弱くなってより強い薬に頼るようになります。中途覚醒でまた薬を飲んだり、いっぺんに2剤必要になってしまいます。もともと眠くない脳を無理やり薬で眠らせるというのは理にかなっていません。また、夜間トイレに起きた時に睡眠薬の作用でねぼけて転倒し骨折する人も少なくありません。
排尿日誌
原因を知るために排尿記録を付けてみるのはとても有効です。一日の尿量が1500ml以上ならば湯茶の摂り過ぎでしょう。
私自身もそうですが夜に目が覚めるといろいろな不安や心配が頭に浮かんで暗い気持ちになったりつまらないことを考えます。夜の闇がそうさせるのだと思います。できる限り前向きに考えるように苦労しています。若い方の頻尿は原因がありますが、年とってからの頻尿はある意味で自然現象と開き直るのも得策かもしれません。