テレビ番組の収録で12歳のアイドルがヘリウムガスを吸って意識を失い救急搬送されるという事件が最近ありました。身近に手に入るパーティーグッズでそのような重大事故が起きるなど予想もしない事でした。
 
 空気塞栓症は静脈空気塞栓症と動脈空気塞栓症があります。静脈空気塞栓では静脈に入った空気が肺に運ばれそこで空気が詰まるので咳や呼吸困難などの症状を起こします。微量であれば少しずつ空気は血液に溶け混み改善します。動脈空気塞栓では動脈に入った空気が脳に運ばれ血管を閉塞します。脳梗塞と同じで、麻痺や、意識障害など重篤な症状を併発します。治療は一刻を争います。さて今回の事故はヘリウムガスを高圧で?大量に?吸入したために肺の毛細血管から血液の中にガスが入り、血液中から脳の血管に達してそこでガスの塊(泡)が血管を閉塞した状態(空気塞栓症)と考えられます。状況からはなぜそのような状態になったかよくわかりません。
 ヘリウム(He)は原子番号2番で水素の次に軽い気体です。水素をつめた飛行船が爆発炎上するという事故(ヒンデンブルグ号事件:1937年)の後に、燃えないHeが飛行船の中身に使われるようになりました。お祭りなどで売られている風船の中身にも使われています。Heは空気よりも分子量が小さいのでゴムの隙間から抜けやすく早くしぼんでしまいます。風船用の100%Heを吸い込むと、肺の中の酸素がHeに置き換わってしまい酸素欠乏となり窒息死してしまいます。そのため吸入用の ヘリウム缶は酸素が20%含有され窒息しないようになっています。これまでのHeの死亡事故は工業用の100%ヘリウムを誤って吸引したために起きたわけで今回とは事情が違います。ヘリウムを吸い込んで声が変わるのは、Heの密度が薄いために空気より音速が早くなるためだそうです。音速が早くなると音が高くなります。ウッドペッカー現象というのだそうです。
 
 

我々が日常で気を付けなければいけない空気塞栓現象は、

 スキューバダイビング時の事故です。水中に潜ると気圧が高くなります。10m潜ると1気圧20mだと2気圧高くなります。海に潜った時に耳が痛くなるのは水圧によって鼓膜が押されるからです。もし20mの深さから息を止めたまま海面まで急に浮上したとすると、肺の中の空気は4倍に膨れます。すると浮上する途中で肺は破れてしまいます。肺に弱いところがあるともっと浅いところでも事故が起きてしまうかもしれません。敗れた肺の血管断面から肺の中の空気が血管中に入り空気塞栓を引き起こします。肺が破れなくても急浮上すると、血液中に高圧下では溶けていた空気が気泡となり空気塞栓を引き起こします。実際水中で吐いた空気を追っていると水面に近づくにつれて泡が大きなバブルとなっていくのは見たことがあるのではないでしょうか。海の中から浮上するときは息を吸ったり吐いたりしながらゆっくりしたスピードで上がらなくてはいけません。初心者などは海の中でパニックになるとすぐ浮上しようとするわけですがそこには重大事故の危険が潜んでいます。  
 

うめやま医院 高崎市 泌尿器科