床屋や美容室で洗髪してもらう時の頭のマッサージはとても気もちのよいものです。ほかにどこか痒いところがありますか?と聞かれても、あっちもこっちも追加してとはなかなか言えないものです。
床屋は首を前に倒し、美容室は天井を見上げ首を後ろに倒してシャンプーが行われます。イギリスでの話ですが、美容室でシャンプーされた後に脳卒中を起こして、美容室側が1300万円の賠償を払ったという事件がありました。美容室と脳卒中、いったいどんな関係があるのでしょうか?
脳に行く血管は片側2本、内頚動脈と椎骨動脈です。椎骨動脈は頸椎の横突起の中の横突孔の中を通っています。首を大きく後ろに倒した時に横突孔の狭い人や頸椎の並びがゆがんでいる場合血管が大きく曲がり血流が遮断されます。脳に行く血液が遮断されるために、めまい、ふらつき、吐き気、などの症状が出ることがあります。屈曲した血管の中で血液が固まった場合に、首を元に戻すと血栓が脳に飛んで脳卒中(脳梗塞)を起こすことがあります。もちろんめったに起きないことですが、脱水などで血液が濃縮状態にあるときや、糖尿病やコレステロールのために動脈硬化が進んだ人では起こる可能性は否定できません。ヨーロッパではかつて教会の天井画や高所にある彫像を見上げていて、めまいや動悸を覚え失神した人などもいて、その教会や彫像は神々しいものと評判になった事例や、呪いが移って倒れたとうわさされたこともあったそうです。実は首を大きく後ろにそらして長い間天井を見上げたことによる椎骨動脈脳底循環不全が原因だったわけです。「赤と黒」を書いたフランスの作家スタンダールが、イタリア旅行で訪れた教会の絵を見上げていて倒れたことから別名スタンダール症候群ともいわれている現象です。家庭では電球の交換などで上を向く時に起こるかもしれないのでご注意ください。