【ケース1:79歳 女性】

 生来元気で病院へ行ったこともほとんどなく元気に暮らしていました。
72歳頃より物忘れが多くなり近くの医者を受診したところ認知症と診断されました。認知症が少しずつ進行して、75歳の頃に在宅生活が困難となりグループホームに入所しました。ある時、施設で意識を失い、救急車で病院へ搬送され入院となりました。点滴治療や諸検査の結果、意識は元に戻りました。検査の結果は摂食障害による脱水症でした。意識は元に戻りましたが自分から食べる意志も力もありません。医師から今後について説明がありました。いつまでも点滴をするわけにはいきません。自宅に連れて帰って家族が最期を看取るか、胃瘻を造って栄養と水分を補給するか、経管栄養(鼻から管)をするか決めてくださいと言われました。家族もどうしてよいかわからず、経管栄養が無難ではないかということで経管栄養に決めました。…….しかし前に入所していた施設では経管栄養を受け入れてくれないので、他の施設を紹介してもらいそこに入居しました。
 
 経管栄養をしていると充分なカロリーが本人の意思や食欲と無関係に注入されます。 施設では週2回お風呂に入れてくれて全身を洗ってくれます。褥瘡ができないように体位交換もやってくれます。昔より少し太ってきました。しかし、ベットか車椅子のどちらかの生活で、歩くことも立つこともできなくなっています。家族が面会に行っても認知症の進行で、息子や娘であることもわかりません。笑う事も無ければ言葉を発することもなくなりました。そんな生活がもう3年続いています。家族は経管栄養で生かされているだけの生活ではないかと想いはじめました。

【ケース2:68歳 男性】

 50歳になった頃より血圧が高くなり降圧剤を内服していました。
 血糖も高めなので気をつけなさいと言われていました。降圧剤は飲むものの食事には無関心、濃い味の食事を好み煙草も吸っていました。仕事が忙しいので運動する時間もありません。60歳の春に、自宅で倒れ救急車で総合病院へ入院、脳梗塞と診断されました。一命は取り留めたが、右半身麻痺で寝たきりになりました。しゃべることもできないし食べることもできなくなりました。入院中は点滴をしながら経口摂取の訓練もしましたが、うまく飲み込むことができません。病院の言われるままに家族は胃瘻を選択し退院となりました。
 自宅での介護は、妻ひとりでは不可能であり、息子夫婦に頼るわけにもいきません。結局老人ホームに入居しました。老人ホームに入居しているので看護婦さんが毎日血圧をチェックしてくれます。胃瘻からは計算された通りのカロリーが注入され血糖コントロールも良好です。しかし誤嚥性肺炎による発熱を頻回におこします。食事をしなくても唾液と一緒に口腔内の細菌が気管支に入り肺炎を起こすのです。家族が面会に行っても、しゃべることはできず、反応も示せません。妻は8年もの間、足しげくホームに通い夫を励ましています。この生活がいつまで続くのでしょうか?
 
 

ケース1、ケース2ともに他人事ではありません。

ケース1では病気になる前に本人がいざとなったらどうして欲しいかを決めて家族に告げておけば家族が悩むことはありませんでした。ケース2も同様に自分でいざという時にどうして欲しいかを決めておけば家族の苦労は減っていたはずです。“何もしないで”という選択は家族ではなかなかできません。

うめやま医院 高崎市 泌尿器科