抗生物質を始めて発見したのはイギリス人細菌学者フレミングでした。1929年のこの発見は医学史上もっとも偉大な発見の一つでした。しかしそのきっかけは偶然でした。彼は実験中のブドウ球菌の培養地を放置したまま休暇をとりました。寒い日が続いたためブドウ球菌は増殖せず、その間に青カビが飛んできました。その後気温が上昇しブドウ球菌と青カビとが同じ培地で増殖を始めました。休暇から帰ったフレミングが見つけたものは青カビのまわりにブドウ球菌が生えていないということでした。彼は青カビが何か細菌を殺す物質を放出しているに違いないと考えました。それから10年後、この物質は分離されペニシリンと名づけられました。第二次世界大戦の最中のことでした。そして、ペニシリンは肺炎や結核、けがなどに罹患した多くの人の命を救いました。
抗生物質とは“微生物の生産する物質で、他の微生物の成長、繁殖を阻害する物質”です。作用機序は抗生物質によって様々です。ペニシリンは細胞の一番外側にあって周囲から細胞を守る細胞壁の合成を阻害します。この細胞壁は人間や動物にはありませんので、人間や動物はペニシリンを服用しても、原則として、大丈夫なのです。
では何故微生物は抗生物質を作り出すのでしょうか?ひとつの答えとしては、青カビなどは自由に動き回ることができません。たまたまたどり着いた場所で養分を吸収し成長、繁殖していかなければなりません。そのときに邪魔になる競争相手の微生物を殺すために生産していると考えることができます。
抗生物質を簡単に言うと“ばい菌を殺す薬”です。しかしひとつの薬がなんにでも効くわけではありません。薬によってそれぞれ得意なばい菌と不得意なばい菌があるのです。抗生物質は実際にどのような形で使われているのでしょうか?転んで傷をつくったとき、風邪をこじらせたときあるいは予防的に、肺炎になったとき、手術をした後、食中毒、膀胱炎、溶連菌感染症、胆のう炎、痔ろう、…..等 様々な病気に使われています。その病気に関係する菌に一番効きそうな薬を処方しています。肝臓や腎臓、年齢などによって量や種類も変わります。飲み薬、塗り薬、注射など使われ方も病状によって違います。抗生物質に対し細菌は耐性を持つようになるので新しい抗生物質が開発されますが、また耐性菌が出現し、いたちごっこが続いています。
皆さんが抗生物質を内服するとき注意して欲しいことは
1.勝手に止めない、間引かない。
もう調子が良くなったからいいだろうとか、今日は宴会があるから夕の分は止めようとか自己判断しないでください。病気の再発や遷延化の原因になります。少なくともこういうときは電話でどうしたらよいか問い合わせしてください。
2.いつまでも頼らない。
抗生物質で状態が良くなるとその薬が手離せなくなりいつまでも頼る。あるいは調子が少しでも悪くなるとすぐ服用してしまう。こういったことは薬剤耐性菌の出現につながります。
3.抗生物質によって下痢をしたり、発疹ができることがあります。体調に変化がある時は副作用のことがあるので連絡をお願いします。
4.常用薬がある時は医師に教えてください。