身の回りで入浴中に亡くなった人の話を聞いた方は多いと思います。
当院の通院中の方でも亡くなっています。その中には血圧が正常で大した病気のなかった人もいます。私の高校の同級生も50代前半で奥さんが実家に帰った時に自宅で一人で酒を飲んで入浴し死亡しています。皆さんが考えるより入浴中の死亡事故は多く、身近に起きています。
プールや海でビーチボールを水中に沈めようとすると結構な力を必要とします。これは浮力の作用が大きいのですが、一方で水中から受ける水圧も受けています。人間が風呂に入る時には、体重があるので簡単に風呂に入ることはできますが、実はビーチボールと同じように風呂の湯から浮力と水圧を受けています。人間の体に浮力や水圧がかかった場合、皮膚や脂肪組織を通してその圧力は血管に作用します。風呂に使った部分(首から下)の血管を押しつぶす作用があります。入浴により腹囲は3~5㎝減少します。下半身の押しつぶされた血管の中の血液は心臓にいっきに戻ってきます。血圧も一気に上昇します。これが心臓に負担がかかる理由です。心臓に血管の狭窄など、隠された病気が発生していれば心筋梗塞などを起こしかねません。また急な血圧上昇が脳出血などの引き金を引くこともあります。
いったん上昇した血圧ですが、入浴しているうちに、体の末梢血管が拡張してくるために徐々に血圧は下がってきます。
長湯をしていると発汗のために脱水となり血圧はより下がります。お酒を飲んで入浴すると血圧の低下はより顕著になります。いったん上がった血圧が湯船につかっているうちに下がってその限度を超えた場合どうなるでしょうか?意識が低下して(気を失って)しまいます。もし浴槽の中で座っていてお尻が滑ったら口元まで湯船につかってしまうでしょう。意識を失ったままでいたら水を飲んで窒息(溺死)してしまいます。ひょっとしたら皆さんの中でも風呂でいい気持になってふと寝入ってしまったなどという人がいるのではないでしょうか。その時は多分血圧が下がっていたと思います。また風呂上りに脱衣所でのぼせや立ちくらみを経験している人もいるでしょう。そんな時も血圧が下がって脳に十分な血液が言っていない証拠です。
お風呂での死亡事故は、意外とそれまでに健康だった人に多いのも特徴です。
健康だという自覚が油断をさせているに違いありません。それではどうしたら風呂での事故を防げるか考えてみましょう。
1.風呂での急死は地域的には沖縄と北海道で少なく、東北や中部、北関東で多い傾向です。つまり冬の室内暖房対策が不十分なために、脱衣場や風呂場の温度が低いことが原因として挙げられます。風呂を入れる時に湯船の蓋を取ったまま湯を入れる。脱衣場に暖房をする。高齢者は二番湯に入るなどは良いことと思います。その他
2.湯温度は39~41度までで熱くしない。
3.長湯をしない。
4.寒い日は早めの時間帯に風呂に入る。
5.食直後や深夜、早朝の入浴は避ける。
6.心臓病や高血圧のある人は風呂の湯をあまり溜めないで浅めにしてはいる、半身浴にする。
7.入浴前に1杯の水を飲む。
8.入浴することを家族に告げてはいる。
9.冬場は公衆浴場や日帰り温泉を利用する。
すこし心遣いしてみてください。